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Project #01 LIVELY WOODⓇ

新たな木材を“発明”し 森を、家を、暮らしを変える

ライブリーウッドプロジェクトチーム

mission

森林大国・日本。だが今、放置された森林が増え、木々は過剰に成長し、森と暮らしのバランスが崩れている。その影響は、災害や林業の衰退、花粉症被害まで広範囲におよぶ。この、森林問題を解決すべく、帝人が生み出したプロダクトが「LIVELY WOODⓇ(ライブリーウッド)」だ。木材の可能性を高め、新たな活用の道筋を切り拓いたLIVELY WOODⓇは、どのように私たちの暮らしを変えるのか。プロジェクトの活動を追った。

project member

  • 帝人の長瀬諭司

    長瀬 諭司

    帝人コーポレート新事業本部アライアンスマネジメント部インフラチーム 技術リーダー

    2005年帝人入社。以降、ポリエステル工業繊維や土木・産業資材の開発を経て、2014年よりインフラ新事業開発に取り組む。LIVELY WOODⓇの開発も手掛け、プロジェクトを広めるべく奔走する。現・帝人コーポレート新事業本部アライアンスマネジメント部インフラチーム 技術リーダー。

Background

ふたたび、森林と共存するために

森林は、ずっと日本人にとってなくてはならぬ存在だった。国土の3分の2を占める森林からは、エネルギーや食資源が生み出され、木々は家や道具の材となり、私たちの暮らしを豊かにうるおしてくれた。日本は森とともにあり、木とともに生きてきたといっても過言ではない。だが、今、そんな森林と共存した暮らしが急速に失われようとしている。原因はシンプル。「国産材を使わなくなったから」だ。
戦後、安価な外国産の木材が流入すると、高価な国産材は活用されにくくなる。1955年に9割以上あった木材自給率は2002年にはなんと約2割にまで落ち込んでしまった。すると当然、林業も成立しづらくなる。やがて森林が適切に管理されなくなると、さまざまな弊害が生まれてきた。たとえば、放置された木々が生い茂り、土は光が届かず脆弱化し、土砂災害につながる。いまや国民病とも言われる花粉症も、スギの木が増えすぎたことが一因だ。このままでは、森林と私たちの暮らしはますます分断され、二度と共存できなくなってしまう。そんな強い危機感を持って立ち上がったのが、帝人のLIVELY WOODⓇプロジェクトだ。

森林
Chemistry

木だけど、木じゃない。全く新しい建材の誕生

「帝人は創業以来、『社会』と『暮らし』の両方を豊かにするソリューションを提供してきました。森林の課題は、まさに『サスティナブルな環境』と『木のある暮らし』という、社会と人の両方に関係するもの。私たちがやらねば誰がやる、という想いでプロジェクトを立ち上げました」
そう話すのは、プロジェクトのリーダーを務める長瀬諭司。この問題の本質は、国産木材が使われないことにあると考えたプロジェクトチームは、木材市場のリサーチを踏まえて、スギの木に着目した。
「スギは日本の森林資源の4割を占める木ですが、輸入材やヒノキなどに比べて柔らかいため、梁や桁といったいわゆる横架材には向かないとされてきました。では、このスギの木をもっと丈夫にし、使えるようにしたらいい。そう考え、私たちの技術を眺めていたら、いいアイデアが浮かんだんです」
長瀬が手に取ったのは、炭素繊維。軽くて強い炭素繊維は、自動車や建築材料、医療など、さまざまな分野で活用されており、帝人の強みとする素材だ。これをスギの木に組み合わせることで、今までにない強靭な剛性(歪まなさ)を実現しようとしたのだ。アイデアが浮かぶやいなや、長瀬は早速具体的なプロダクトをつくるために香川の木材加工会社に飛び込んだ。まったくの新しいチャレンジに加工会社のメンバーは驚きつつ、喜んで協力してくれたという。
「木材に関わる方たちは木材の可能性を信じている。だからこそ、このチャレンジを歓迎してくれたんだと思います。はじめてのことで、わからないことだらけの自分たちも、開発の過程で木材への理解が深まり、手応えを感じるようになりました」
かくして、木材の四角に炭素繊維が入った不思議なプロダクトが誕生した。その剛性は、実に旧来のスギ集成材に比べて2倍以上。それでいて、重さはほぼ同じ。事実上、木、鉄、コンクリートに次ぐ、新たな建材が生まれた瞬間だった。その名も、LIVELY WOODⓇ。「木を活かし、空間を変え、私たちの暮らしを活気づけること」を願い命名された。

ライブリーウッド
Solution

無柱木造空間が、「未来の豊かさ」を生む

モノは、できた。あとはそれをいかに実装するかだ。帝人は実証実験として、2019年3月、自社の東京研究センター(日野市)内に、LIVELY WOODⓇを活用した「MIRAI LIVELY HOUSE」をオープンした。屋根と床の梁にLIVELY WOODⓇを使用したこの建築では、5mも“無柱”で突き出たスペースがある。高い剛性と強度で屋根や床を支えることができたため、空間内部に柱が不要になり開放的な空間が実現したのだ。梁も従来の木造のものより細いため、天井が高く感じる。光もよく入り、自然との一体感が高まり、なによりも木の気持ちよさはそのまま活かされている。この新しい木造建築は、国土交通省の「サステナブル建築物等先導事業」に採択され、「ウッドシティTOKYOモデル建築賞」も受賞した。
「今までは鉄骨や鉄筋コンクリート造でなければできなかった広々とした建築が、木造でできるようになることを証明できました」
「無柱」で「開放的」。それは木造建築を大きくアップデートし、住む人のクオリティ・オブ・ライフを高めるだろう。
「環境問題や社会問題を考える際に、『人の豊かさ』を置き去りにしてはいけないと思っていて。いくら環境に良いソリューションがあっても、それが人にとって苦しいものであれば、長続きしない。LIVELY WOODⓇは、木造建築という私たちの暮らしに最も身近な空間をより快適にし、それが増えることで環境にも貢献できる。スギの木が適切に伐採されるようになり、林業と森林が再生し、それがまた人の暮らしの質を高めてくれる。そんな良い循環の第一歩になれば、嬉しいですね」
実際その後、LIVELY WOODⓇの活用は、各所に広まりを見せている。さまざまな建築家や企業とコラボレーションすることで、LIVELY WOODⓇの可能性はさらに引き出されるだろう。私たちの未来の暮らしの一端は、ここにある。

未来ライブリーハウス

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クレジット
編集・執筆/鈴木 聡(ondo inc.)
撮影/是枝右恭、内田トシヤス